無人島シネマ

忘れてしまうには惜しい映画 および雑記

210. 山の音

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引用元:wikipedia.org

 

1954年の作品

 

成瀬巳喜男監督、川端康成の同名小説が原作

 

終戦から数年後の鎌倉、妻と長男夫婦と四人で暮らす尾形(山村聡)は、重役として東京の会社に勤務している

 

昨年、還暦を迎え、これまで健康を特に意識したことはなかったものの、喀血したり、物忘れがあったり、と不安を持ち始めていた

 

そんな折、深夜に地鳴りのような山の音を聞き、死への恐怖を意識する

 

同じ会社で補佐的な仕事をしている息子の修一(上原謙)の妻、菊子(原節子)は色白で、若い頃に憧れていた(既に亡くなった)義理の姉を思い出させた

 

息子夫婦は、結婚して二年足らずにもかかわらず、修一は他所に女がいるらしく、菊子が不憫に思え、修一の様子を探ろうとする

 

 

 

 

息子の不倫と、その妻への愛情、というとドロドロしたものを想起させるけれど、(息子は別にしても)義理の娘を思いやる感情には理性がある

 

小津作品には「それ以上は進まない、描かない」という観る側も了解している不文律があって、安心して観られる

 

不思議なのは、尾形が菊子のことを気遣えば気遣うほどに(際立ってしまう修一の菊子に対する不当な扱いで)菊子の不憫さが浮かび上がってくるところ

 

 

死期を感じ始め、心落ち着かなくなるも、家族周辺の問題解決をしておきたいという思いと混ざり、焦る尾形の心境がリアルに描かれている

 

そしてそんな(家族の面倒を何とかするのは自分だと思っている)尾形の意識の中ではけじめをつけられている義理の姉への感情が、思いの外家族に大きな迷惑を掛けている状況も「(それでもまだ何とか恰好がついていた)昭和の父」という体で印象に残る

 

また復員兵の息子が、出兵前は真面目だったことからも、戦後の虚無感を色濃く感じさせる 

 

 

残念ながら本作の映像は見当たらなかった