引用元:nikkatsu.com
1956年の作品
戦後から約10年、本作の映像では家の前の道は舗装されておらず、車が通るたびに埃が舞い上がる
銀座のバーのシーンではスーツ姿の男たちにドレスを着たホステスが、コニャックを飲みながらシャンソンを聴いている
今でも銀座のバーは存在しているし、夢のような空間なのかもしれないけれど、当時の昼間の生活とのギャップを考えると、如何に特別な場所だったのだろう、と思う
写真会社の社長を務めている村上春樹(森雅之)は、以前は天才画家と言われたほど将来を有望視されていたにも関わらず、そのキャリアを捨て実業界に転じてしまった
かつては苦しい生活を送ってはいたが、今では妻房子(高野由美)、会社で営業部長を任せている息子の圭吉(三橋達也)、そして幼い頃小児麻痺を患い今でも左手が不自由な珠湖(芦川いづみ)と家族四人不自由なく暮らしている
社長の息子であるのをいいことに、仕事も適当に済ませ、戦争未亡人で銀座のバーで働いている久美子(新珠美千代)を愛人にしている
春樹と房子は、昔世話になった画家の告別式で、画家の息子である正隆(二本柳博)に出会う
今はナイトクラブのマネージャーをしている正隆は、店で歌っているシャンソン歌手のミキ子(北原三枝)のパトロンにと、ミキ子に圭吉を誘惑させる
タイトルの風船とは何を示しているのだろうか?
親の金で怠惰な生活を送っている圭吉や正隆の様でもあるし、圭吉に尽くしながらも報われない久美子にもあてはまる、社長にまで昇りつめたものの、夢を諦め家族の絆も感じられていない春樹にも見える
そこに身体のハンディから不自由な生活を強いられ、それを苦に思いながらも天真爛漫な珠湖や、正隆の命令に従いながらも野心的なミキ子など、それぞれの思惑がバラバラに交差して見える
それは余りに存在感の無い房子の起因しているように思えてならない
上品で温厚ながらもどこか冷たい印象の春樹とふたりの子供の間で、家族を愛情で繋げる存在であるはずの母親であり妻の役目を果たしておらず、空中分解している風に見える村上家そのものが風船にも見える
家族を十二分に養い、正しくあろうとする春樹は、同時に息子を甘やかしてばかりの妻、そしていい加減なだけでなく人の心の痛みも理解できない息子、そしてハンディを抱えながらも外に飛び出して自立したいと願う娘、その三人ともを見殺しにしている
程度の差こそあれ「復讐するは我にあり」の父親を思い出してしまった
明日は、甘酸っぱい青春映画をご紹介