引用元:Yahoo!映画
前回に続いて1979年の公開
本作の設定年度は昭和38年(1963年)ではあるけれど、当時どんな作品が公開されていたかという意味では「さらば青春の光」と本作が同じ公開年度というのも面白い
ちなみにこの年にヒットした曲は、日本で「いとしのエリー」、「いい日旅立ち」、イギリスではポリスの「孤独のメッセージ」、そしてどちらの国でも「YMCA」(ビレッジ・ピープル / 西城秀樹)がヒットしていた
1963年から翌年にかけての78日間、詐欺をはたらきながら福岡から北海道まで延べ12万人にも及ぶ捜査員の目をすり抜けて、計5人の命を奪った殺人鬼を描いた同名小説を今村昌平が映画化したもの
タイトルの「我」とは「神」のことで「悪人に報復を与えるのは神」という意味らしい
ふたりの男を殺した榎津巌(えのきずいわお 緒形拳)は、時には大学教授、時には弁護士になりきって詐欺行為で資金を蓄えながら逃走を続けていた
やがて浜松に流れ着き、駅前で拾ったタクシーの運転手に紹介された旅館の女将ハル(小川真由美)の情夫になる
浮気癖のある夫、困窮する家計、そして刑務所帰りでギャンブル漬けの母親などによって生きる希望も失ったハルは、教授と呼んでいる男の正体を(ふたりで入った映画館でスクリーンに映された指名手配写真をみて)知ってしまった後でも離れようとはしない
巌という男は、幼少のころから手が付けらない暴れん坊で、成長と共に犯行の凶悪度を増し、ついには何の躊躇もなく詐欺や殺人を犯すまでに至ってしまう
また神父である父親(三国連太郎)の、都合良くキリスト教徒の建前を優先して父親であることや夫であることの責任から逃げ回る様を嫌悪し、反発し続ける
連続殺人を犯している巌の邪悪さは言うまでもないけれど、何故このような男になってしまったのかを考えると(一見、真面目で温厚そうな)父親の無責任な身勝手さは罪深い
息子の様に人殺しはしないけれど犬を殺し、息子の嫁と寝たい欲望を抑えつつ他人に乱暴させるなど、欺瞞に満ちそして恐ろしく歪んだ父親が、逮捕された息子に面会に行く
すると残酷な犯行をいとも簡単にやってしまう息子は、父親に対しては感情をムキ出しにして「あんたを殺したかった」と吠える
前述の三人に加え、倍賞美津子、清川虹子、ミヤコ蝶々、菅井きんなど、錚々たる顔ぶれが(しかも今では考えられないくらいの体当たりで)熱演
状況を説明するようなシーンは殆どなく、ストーリーは逮捕前と逮捕後を行き来するぶっきらぼうな展開
観る側が状況整理と背景推考を同時進行で補いながら鑑賞するのも疲れるけれど、その甲斐のある作品
個人的には平和台球場で西鉄ライオンズが優勝を決めるシーン(一瞬だけど)が観られたのも嬉しかった