無人島シネマ

忘れてしまうには惜しい映画 および雑記

85. イレブン・ミニッツ

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2015年のポーランドアイルランド合作

 

ポーランドを舞台にした映画が観たくて選んだ作品

 

 

タイトルが示す様に11分間、正確には午後 5:00 ~ 5:11 までの出来事を描いている

 

示しているのは11分間というだけではなく、他にも11を意味するものが随所に出てくる

 

 

午後5時、ワルシャワの豪華なホテルの一室で、チャンスを掴みたい女優と、女好きな映画監督が面接をしていた

 

そして嫉妬深い女優の夫が、妻を追いかけてホテルの11階に向かう

 

ホテルの外では、屋台のホットドッグを売っている男に少女が歩み寄り、「もう出所したのか」と尋ね、男の顔に唾を吐く

 

屋台の男の息子は、明日結婚式を挙げるというのにバイク便の仕事の配達先で人妻との密会を楽しむ

 

次の配達先のビルのエレベーターで、オーバードーズにより錯乱状態になってしまうも、何とか配達を終えてホテル前で父親と会う

 

そんなワルシャワの街から見上げた空には正体不明の黒点が見える

 

執拗な監督からのアプローチを巧みにかわしていた女優は、突然気分が悪くなり、ホテルの1111号室のバルコニーで失神してしまう

 

失神は(面接上のアピールとしての)演技かと思った監督もさすがに焦り始め、必死で介抱しようとしていたところに、女優の夫がホテルの廊下に設置してあった消火器でドアを壊し部屋に入ってくる

 

 

 

自分の中で、ポーランドは「いつか行きたい国ランキング」のかなり上位にある

 

ピエロギ(西アジアの影響を感じさせるいかにも東欧っぽいダンプリング)やビゴス(細かく切ったキャベツとザワークラウトを肉と煮込んだもの)という郷土料理を食べて、ボレスワヴィエツという街でポーランド陶器を買い込んで、かなり地味な観光地にも行ってみたい

 

 

本作には、こちらが期待していたような東欧の生活感はなく、狂気を孕んだ無機質なやりとりが繰り返され、ラストシーンではそのバラバラなやりとりが紐ついてくる

 

手法としては王道だけれど、スリリングで楽しめた

 

84. サバービコン

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2017年のアメリカ映画

 

コーエン兄弟脚本、ジョージ・クルーニー監督

 

1959年のアメリカ、サバービコンは白人だけが住む閑静な住宅街

 

最新の家電に車、そして円満な家族、と絵にかいたような幸福な家庭が集まった街として広告宣伝されている街に、ガードナー(マット・デイモン)も美しい妻のローズ(ジュリアン・ムーア)、息子のニッキーと暮らしている

 

そんな理想的な街に、(ガードナーの家の隣に)アフリカ系アメリカ人一家が引っ越してくる、、、誰しもが予期しなかった時代に周囲は不穏な空気に包まれる

 

しかし交通事故で車いす生活の妻のローズだけは例外で、息子に隣の少年と一緒に遊ぶことをすすめる

 

 

ある日の夜、ニッキーが寝ていると、「強盗に押し入られた」と父親に起こされる

 

全員がクロロホルムを嗅がされ気絶してしまい、中でも大量に嗅いでしまった母親は帰らぬ人となってしまった(ニッキーは強盗の母親への対応が他と違っていたことに違和感を持つ)

 

事件の後、自分の面倒をみるために母の妹であるマーガレットが一緒に住み始めた

不思議なことに母と同じ色に髪を染めて

 

 

 

この映画、評判が良くないみたいだけれど、個人的には面白かったし実際に良くできた映画だと思う

 

ただし、テーマを三つ(都市の空洞化現象、人種問題、殺人事件)盛り込んでいるのに、その見せ方に失敗しているという気はする、、、このタイトルとポスターなら、鑑賞する人は、「空洞化に起因した郊外での人種問題」と思うだろうし、さらにもうひとつ(ある意味これが軸になる)テーマがあるのなら、ネタバレしない範囲で明示しておくべきだったろう

 

見せ方が違ったらもっと高く評価されていただろう作品

(こういうバランスの悪さもコーエン兄弟作品の魅力だけど)

 

 

83. あの日のオルガン

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#この1年の変化

 

 

昨年の3月頃からテレワークが始まり、自宅で過ごす時間がかなり増えた

 

オフィスまで往復で150分かかっていた時間が有効に使えるのは有難いけれど、しばらくするとメリハリのない生活にちょっとした焦りを感じた

 

その時には

 

「もしかしたらテレワークがあと数か月は続くかも」

 

という、今思えば大甘な予想ながらも、普段とは違った仕事が増えてむしろ忙しくなったこともあって

 

「ぼんやりしてたら今からの数か月、仕事だけで終わってしまう」

 

と思い、そして

 

「仕事と食事と休息だけの繰り返しだと苦しいな」

 

ということで気分転換も兼ねて、ひたすら映画を観ることにした

 

いくら忙しくても通勤時間で(通勤してないけど)一本観られるのだ、それに加えて身体が疲れていないから多少睡眠を削ることもできるし、週末なら4-5本観ることもできる

 

不思議なものである程度続くと、「観始めるためのエネルギー」が全然かからなくなっていることに気が付いた

 

缶ビールのプルタブを「プシュッ」とやるくらいの気持ちで観始めて3分経てば、ストーリーに入り込んで最後まで観てしまう

 

春、夏、秋、冬、平日の夜中、そして週末、古い邦画から、観たことの無い国の作品、以前見た好きな作品を観直したり、気に入った監督や俳優の過去作品を辿ったり

 

この生活を初めてもうすぐ1年になるけれど、飽きるどころか映画の魅力にまだまだ浸かっていける感覚

 

 

スポーツ観戦は試合そのものが中止されていたし、読書でも、音楽でも、楽器の練習でもなく、もちろん勉強でもなく、映画が(自分にとっては)ちょうど良かったのだろう

 

備忘録として昨年6月から始めたこのblogもなかなか(インプットに対して)アウトプットが追い付かない

 

今後テレワークが減ったり無くなったとしても、(鑑賞本数が減りはしても)この習慣は変わらないだろう

 

そう思うと2020年のささやかな収穫ではある

 

 

 

 

 

時は1944年

 

品川にある戸越保育所では、日々刻々と状況が悪化する中、子供たちの命を守るために保育所疎開を考えていた

 

保母たちが探し回った結果、埼玉にある荒れ寺で疎開生活をスタートさせることになるも、その寺には窓ガラスも無く、夜は子供たちのオネショに悩まされ、大変な毎日が続く

 

暗くなってしまいがちなストーリーだけど、無邪気な子供たちと個性的で明るい先生たちによって救われている 
 
リーダー(戸田恵梨香)は、いつも何かに怒っているけれどしっかり者で、甘えん坊の新人保母さん(大原櫻子)は、オルガンが得意で子供たちと一緒に歌っていて、まわりの保母さんたちもみな子供が大好きで、無事に戦争が終わる(その時まで子供たちの命を守る)ことだけを祈って明るく必死で生きる姿に胸を打たれる
 
保育所はいつの時代も、その先の小学校、中学校とは違って、勉強も競争もなく、みんなで遊んだり歌ったりする場所であってほしい
 
 
 
本作の監督は、平松恵美子
 
都内でOL(24歳)として働いていた時、新宿ピカデリーで見た塾生募集のポスターがきっかけで会社を辞め、松竹の養成塾に入り、山田洋次監督の「学校」で助監督見習いとしてキャリアをスタートさせ、以降山田組に加わっていく
 
本作にも山田洋次作品の味わいがしっかり継承されている
 
 
2019年公開 
 

82. マダム・イン・ニューヨーク

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2012年のインド映画

 

お菓子作りが得意な主婦シャシは、夫と娘、息子に姑と5人でインドで暮らしていた

 

幸せな生活ではあったが、年頃の娘に英語が苦手なことを馬鹿にされるのにはモヤモヤした気持ちでいた

 

そんなある日、ニューヨークで暮らす姉から、「娘ミーラが結婚するからその準備をニューヨークに来て手伝って」と頼まれ、家族より一足先にニューヨークに来たのはいいものの、やはり英語ができないことで躓いてしまう

 

それはシャシにとっては一時的な失敗ではなく、お菓子作りだけが取り柄で他には何もない(と思われてしまう)とても屈辱的なこと

 

そんなニューヨークでの滞在中、偶然目にした英会話教室の案内に、シャシは一大決心をする

 

 

家族にも内緒で教室に通い、いろんな国から来た他の生徒たちに混ざって必死に英語を学び始める

 

普通なら、控え目な性格のシャシには言語の習得は難しいところ、「こんな恥ずかしい思いはもう嫌だ」という強い感情で始めたのが良かったのか、英会話能力もグングン上達し、語学以外にも新しい可能性がたくさんあることに気付いていく

 

理解の無い夫からイジられることには我慢(受け流すことが)できても、愛する娘に「恥ずかしい」と思われることには我慢ができなかった、そして(言語を通じて)いろんな知識や経験を得て成長していく娘に置いて行かれたくない気持ちが強かったのかもしれない

 

 

 

ちなみに日本人の英語学習目的ランキング、というのを見ると

 

  1. 就職、転職に有利

  2. 自由に海外旅行をしたい

  3. 海外と交流したい

  4. 街で困っている外国人を助けたい

  5. 一般常識として

  6. かっこいい

  7. 映画を字幕、吹替なしで楽しみたい

  8. 世界観が変わる、広がる

  9. 子供が話せるようになるため

 10. 中高で学んだのに使えないのが情けない

 

となっている

 

当時のインドの教育制度の中で、シャシがどれくらい英語を学習したのか(していないのか)わからないけれど、彼女の場合、10 に加えて 3、8 辺りが該当するのだろうか

 

 

シャシを演じたシュリデヴィは、インド映画の伝説的人気女優

 

結婚後、休業していたが本作で15年振りに復帰(残念ながら2018年に亡くなっている)

 

 

81. 東京画

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敬愛する小津安二郎監督の世界に触れようと、ヴィム・ヴェンダース監督が日本に滞在し、カメラを回しながら日本の風景、情緒を追い求める1985年のドキュメンタリー

 

 

滞在したのは83年の主に東京、この時期はバブルの前とはいえ、景気的には上り調子で社会的にも明るい時期だったはずだけど、ここで描かれる東京やそこに暮らす人たちの表情からはそんな様子は窺えない

 

ヴェンダースが思い描いていた「奥ゆかしい」小津映画の空気はもはやなく、その落差に愕然とする(時代を考えれば無理もないし、2021年の視点からすると83年と小津映画の時代を比較して嘆くというのも悲観的に過ぎる気はするけれど)

 

それにしてもヴェンダースが日本で興味を持つ対象が面白く、また一度興味を持ったらじっくり観察する様子も彼らしくて微笑ましい

 

 

例えばパチンコ屋を観察した後に、小津の墓参りに北鎌倉まで行き、陽が落ちて帰京してからも再びパチンコ屋をのぞいたり(もう閉まっていた)、ゴルフ練習場(ボールを穴に入れることを競うのに、どうして一打目ばかり練習するのか?と不思議でしかたなかったらしい)で、散々カメラを回してから夕食に出掛け、また練習場に戻る(日本のゴルフ練習場を不思議に思ったのは、「秋刀魚の味」を観たのだな、という様なこともヴェンダースが熱心な小津ファンということがわかって嬉しい)

 

確かに自分が海外に行った時にも、変なモノに興味を持って同じ様な行動をしたくなる(実際には時間の制約で叶わないことが多いけど、ヴェンダースがやってるとなると大いに勇気づけられる)

 

定食屋のショーケースに食品サンプルが並んでいる(食品サンプル自体もヴェンダースの目にとまり、後でサンプル工房を訪ねることになる)が、シーフードピラフ680円、ビール450円、スモークサーモン700円と並ぶ価格(当時は消費税も存在しない!)が、今とほとんど変わらないところに日本経済の長い停滞を感じる 

 

令和に暮らす日本人にとって、小津映画はもはやハリウッド映画よりも分かり難いものになっているかもしれないけれど、本作はその良い解説書になるだろうし、ヴィム・ヴェンダース(が小津映画のどういうところに惹かれて映画を作るようになったのか理解できるという意味で)作品をより深く理解するガイドブックにもなる

 

 

余談:

 

上記のゴルフ練習場は、今の東京ドームがある場所で「後楽園ジャンボプール」に併設されていた

 

元々、この場所は水戸徳川家の屋敷(二代目光圀が完成させた)だったものを、明治になってから政府が接収、東京砲兵工廠(ほうへいこうしょう)という鉄砲や大砲の工場として使われていた

 

その後、関東大震災で大きな被害を受け、砲兵工廠は九州の小倉に移転、元の場所に隣接する(現在のドームシティあたり)形で1933年に「後楽園スタヂアム」ができる

(ドームの場所にはしばらく何もなかったが、1949年に後楽園競輪場が作られる)

 

そして1973年に、都による公営ギャンブル禁止という方針のもと、後楽園ジャンボプールができ、1988年に東京ドームが併設される

 

何とも歴史を感じさせる場所だ

 

 

80. アイ・アム・サム

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2001年公開のアメリカ映画

 

コーヒーショップに働くサム(ショーン・ペン)には知的障害があり、7歳程度の知能しかない

 

そんな彼に娘が産まれ、ビートルズが大好きなサムは、ルーシー・ダイアモンド(ダコタ・ファニング 、、、だったんだ)と名付ける

 

母親が退院する日、三人で一緒に家に帰るはずが、母親が途中で逃げ出してしまい、その日を境にサムの毎日は一変する

 

妻に裏切られたショックを周囲に見せることもなく、サムは仕事も育児も手一杯ながらも必死でこなし、ルーシーとの愛に溢れた生活を送るようになる

 

しかし、ルーシーも年々成長し、サムが普通の父親ではないことを徐々に理解し始める

 

 

そんなある日、7歳の誕生パーティーが行われ、サムは楽しい一日にしようと必死で盛り上げるのだったが、他の子どもを無意識に押し倒してしまい、またルーシーのショッキングな発言を間接的に耳にしパニックになる

 

そして通報された挙句、サムは娘と引き離されてしまう

 

 

サムは、ルーシーを取り戻さんと法廷で争うことを決意し、優秀な弁護士のリタ(ミシェル・ファイファー)に依頼するも、相手の検察官に「父親としてふさわしくない点」を厳しく追及されてしまい、窮地に立たされる

 

 

 

 

エディ・ヴェダーシェリル・クロウベン・フォールズなどがビートルズ・ナンバーをカバーした本作のサウンド・トラックも楽しい

 

公開時に本作のサントラを購入したこともあって劇場に行って依頼、約20年振りに鑑賞

 

 

 

知的障害者を演じるのは、オーバーアクションになってしまったり、難しい面も多いと思うけれど、観る側にとっても(障害の表現が)演技だと意識してしまうとストーリーに入っていけなくなったりすることもある

 

本作のショーン・ペンの演技には不自然なところがなく、こちらも最後まで自然に観られた

 

作品の中で、サムが同じように障害を持つ仲間と、いくつかのルーティンを共有しているのが興味深かった

 

水曜日にはアイホップ(パンケーキ屋)で朝食、木曜日には皆でビデオ鑑賞と、決まり事を忠実にこなしていくことで心を落ち着かせる効果もあるのだろう

 

それだけに(本作中にも描かれているように)そのルーティンが守れなかった時にパニックに陥ってしまうのは面倒だけれど、こうした小さな、そして確定している楽しみがある生活は、人生に絶望しないためにも大事なテクニックなのかもしれない

 

 

79. ウィンストン・チャーチル

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2017年のイギリス、アメリカ合作

 

前任ネヴィル首相が1940年に弱腰外交で失脚してイギリスの形勢が悪化、次の首相になるのは「美味しくない」というタイミングで、子供のころから戦争が好きでたまらなかったチャーチルゲイリー・オールドマン)に首相の座がまわってくる

 

 

国民の期待が低かろうが、国王から冷たくあしらわれようが、ドイツに対抗することしか頭にないチャーチルには関係のないことだった

 

保守党は、西ヨーロッパ諸国を次々侵攻し勢いに乗るドイツを恐れ、「講和が得策」と、あくまでもチャーチルに対抗するが、フランスさえもドイツに敗れてしまい、イギリスは苦渋の選択を迫られることになる

 

 

 

チャーチルについては書籍を読んだり、ドキュメンタリーを見たことがあったので(歴史の教科書で習うよりは)知っているつもりでいたけれど、

 

「この人は時代を間違えて生まれてきた(本当はもっと前の時代に生まれてくるべき戦国武将のような)人で、決して政治家気質ではないよなあ」

 

と改めて思った と同時に、生まれてきた時代の間違いが(ヒットラーの出現によって)正解になってしまったんだなあ、とも

 

 

本作の前にDVDで「マーガレット・サッチャー」も鑑賞したけれど、どうしてイギリスの首相はこうして映画作品になり得るんだろうか?

 

 

強い信念、そしてそれを叶える実行力が政治映画の主人公には必要なんだろうなあ