無人島シネマ

忘れてしまうには惜しい映画 および雑記

29. 女は二度決断する

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2017年のドイツ映画
 

「 おじいちゃんの里帰り」は家族愛も含めたトルコードイツの関係性を描いた作品だったけれど、本作は同じトルコードイツでもヒリヒリが止まらない作品

 

麻薬の売人から足を洗い、ハンブルグで旅行代理店を経営するトルコ移民のヌーリは、生粋のドイツ人カティヤと結婚する

 

息子ロッコも生まれて幸せな毎日を過ごしていたが、ある日カティヤが友人とエステに行くためにロッコをヌーリの事務所に預ける

 

その直後、事務所の前で爆発事件が起こり、ヌーリとロッコが犠牲になってしまう

 

警察は当初トルコ人同士の揉め事と決めつけ、ヌーリに宗教上のテロに巻き込まれる可能性がないか尋ねたり、移民の麻薬仲間と依然つきあいがあるのか追及したり、随分な扱いをする

 

カティヤは、息子を預けて事務所から出た時、大きな荷台のついた新しい自転車を停めた女性に、「自転車を盗まれないよう気を付けて」と声をかけたことを思い出し、警察に告げるも、警察はまともに取り合わず、ヌーリを悪者にしようとする

 

弁護士の友人は、カティヤの相談に乗り、落ち込んだ彼女をリラックスさせる為にコカインを渡すが、服用後に警察が家宅捜索に入り、コカインの使用について追及される

 

その上、夫の両親とは遺体をどちらの国に埋葬するかで揉め、また遊びに行くためにロッコを預けて行ったことを責められ、自暴自棄に陥りリストカットしてしまう

 

 

裁判では、ギリシャの極右政党のメンバーであるホテル経営者マルキスが、容疑者夫婦にアリバイがあると主張したり、カティヤのコカイン使用が不利に作用した結果、容疑者夫婦が無罪となり、カティアは敗訴してしまう

 

判決後、容疑者夫婦が海辺で勝ち誇ったような写真をSNSにアップしているのを見つけたカティヤは、夫婦がマルキスの経営するホテルに居ると睨み、現地へと向かう

 

 

暴力はさらなる暴力しか生まない、という誰もが重々分かっているテーマについて改めて考えさせられる作品

 

 

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28. 誰のせいでもない

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2015年のドイツ、ノルウェーカナダ映画

 

ヴィム・ヴェンダース監督の作品を観るのはこれで14本目

 

だから大抵のことにはついていける自信はあるけれど、本作はそんな心配もなく、安心してその世界に浸れる

 

 

 

モントリオール郊外、恋人のサラと暮らす作家のトーマス(ジェームズ・フランコ)は、筆が進まず悶々とした日々を過ごしていた

 

そんなある雪の日、車で自宅に戻ろうとしていたトーマスは、鳴り出した携帯電話を手に取ろうとした瞬間、目の前に飛び出してきた何かに慌ててブレーキを踏む

 

ゆっくりと祈るような気持ちで車を降りて前方に回り込むと、そこには呆然と座り込む少年がいた

 

怪我もなくほっとしたトーマスが、少年の手を引いで家まで送り届けると、母ケイトは息子の姿を見て急に取り乱し、車が停まっている場所に走り出す

 

 

 

 

誰のせいでもない(普通にトーマスじゃないのか?)事故とはいえ、誰も「仕方ないこと」として済ませることができず、この出来事をずっと抱えたまま生きていく、そしてそれぞれの人生が変わったものになっていく

 

ケイトの年甲斐もない身勝手さ、偏狭さは、事故の前から?と想像させるけれど、トーマスにとってはやりづらい相手だ(わざわざケイトに会いに行くところが人間の弱さかもしれない)その辺りの「絡みづらい」女性を、シャルロット・ゲンズブールが見事に演じている

 

それでも皆、前を向こうと(その出来事を頭でも心でも身体でも消化しようと)していて、鑑賞後、心地よい余韻に浸れる

 

 

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27. 愛のお荷物


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川島雄三監督の1955年の映画

 

第一次ベビーブームの日本

 

山村聡演じる厚生大臣は、国会で人口増加抑制政策を約束した直後に、何と自らの妻(48歳)の妊娠が発覚する

 

その対応に苦慮しているウチに、娘や他の親族が一斉にご懐妊という、時代を反映したコメディ

 

コンプライアンスなんて言葉も概念のかけらも無い時代

 

今の視点で観ると、男性の言動はもちろんアウトなものが多いのだけれど、女性がそれに悩んでいるどころか、逞しく反抗したり、軽くいなしたり、何ともしたたか、、、男性より一枚も二枚も上手だ

 

ちなみに下の日本の人口統計グラフを見ると、55年辺りはピンク色の線がグングン上昇している頃

 

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今からの下降線を見ると、あと10年もしないウチに、本作と逆方向のコメディ映画が作られるのかもしれない

 

 

登場人物のほとんどが早口で長台詞

 

その割に、映画としてシッカリ成立しているのは、俳優陣の演技力に加えて、脚本家の力量による部分が大きいのだろう

 

 

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26. キューポラのある街

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キューポラとは鉄の溶解炉のことで、工場の屋根の上にある煙突

 

これが並んで煙を上げている埼玉県川口市の風景からこの映画は始まる

 

この街に住む一家の父、辰五郎(東野英治郎)は、ある日(本当につまらない意地を張って)工場をクビになってしまう

 

もちろん家計は貧窮し、中三の長女ジュン(吉永小百合)は、修学旅行にも行けそうもなかったが、それならばとジュンはパチンコ屋でバイトを始め、何とか修学旅行に行けることになる

 

生活の目途もたち、春からは全日制の高校に進学をと期待していたところに、父親が折角斡旋してもらった再就職先を初日で辞め、ジュンも不良少年に乱暴されかけるという災難が続く

 

そして、近所に住む在日家族が北朝鮮に帰還したり、父親が元の職場に復帰することが決まったりする中で、ジュンは働きながら定時制高校に通うことを決断する、、、まったくもってジュンの逞しさと辰五郎のクズさに驚かされる

 

 

映画はその時々の社会情勢や庶民の暮らしぶりを教えてくれるけど、この作品はそういう点でも意義深い

 

 

 

 

北朝鮮の肝いりで始まった帰還事業は、1959年12月から1984年7月まで続き、総勢9万人以上が日本から北朝鮮に渡った

 

当初、北朝鮮は「地上の楽園」と呼ばれ、本作中の台詞にもある通り、「(現在の日本での貧しい生活よりは)楽な暮らしができるだろう」と思われていた

 

実際には、現地ではあらゆる物資が不足していて、日本に帰ることも許されず、大変な思いをすることになる

 

本作は帰還事業が始まって二年後に撮影開始し、翌 1962年に公開された

 

 

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25. 普通の人々

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新型コロナウイルスのお陰で外出もままならなかった頃(といっても現在も大して変わりはないけれど)、自分でもよく飽きないなあ、と呆れるくらいに映画を観た

 

三月の中旬から六月末くらいまで、結構な本数を観た中で一番印象に残ったのが本作

 

 

 

原題 「Ordinary People」 、タイトルも見事だけど、登場人物の描き方も素晴らしい

 

シカゴ郊外に住む一家の断絶を、初監督のロバート・レッドフォードが見事に描いた作品(1980年のアカデミー監督賞を受賞している)

 

 

 

半年前に長男が事故で水死してからというもの、優しく気の弱い父親、どこか乱暴で冷たい母親、ナイーブすぎる次男、、、(四人家族の時にはうまくいっていたのに)三人の関係が徐々に崩れていく

 

次男の抱えている問題は、両親がサポートすべき問題でもあるのでさておくとしても、父親は仕事熱心な弁護士だし、母親もテキパキと家事をこなす主婦であって、ふたりとも社会的責任を全うしている立派なオトナ、、、それなりにクセはあるけれど、いわゆるクラスや職場にひとりふたりは似た人を見つけられそうな程度の「普通の人々」だ

 

しかし、一旦歯車が狂いだすと、後は加速するように悪化していく

 

父親の優しさは、相手も状況も後先も考えないバラ撒き型の優しさで、結果として家族のためにならず、母親の淡泊さは、程度を越えて愛情の薄さに直結する冷淡さとして、父親を呆れさせ息子を絶望させる

 

 

最初はどこにでもありそうな夫婦間、親子間のイザコザも、この三人の相乗(逆)効果たるや、、、こういった人たちが引き起こす摩擦やストレスをどう処理するのか(しないのか)がコミュニケーションの肝要なところで、人生においても大きな意味を持つのだろう

 

言い替えれば、世の中の家族の大半が、三人の様な悲劇を引き起こすまでには至らない理由は、どこかのタイミングで家族の誰かがブレーキを踏んでくれているのだろう

 

それにしても、初監督作品のテーマにこういうのを選ぶなんてどうかしている(笑)

 

 

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24. ロケットマン

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2019年のアメリカ・イギリス映画

 

エルトン・ジョンの生涯を描いた(ご存命です、、)ミュージカル映画

 

とはいえ、しつこくないし、ストーリーの邪魔をしないから、ミュージカルが苦手な人でも大丈夫

 

イギリスはもちろん欧米各国の成人のほとんどは、彼の生い立ちについて知っているだろうに、改めてこういう作品がヒットすることに「さすがだなあ」と感心してしまう

、、、生い立ちを知っているから映画を観るのか?

 

 

両性愛者であり、またドラッグやアルコール依存症であること、過食症に苦しんだりと大変な時期についてもしっかり描かれているけれど、過剰に重苦しくはせず、二時間のエンターテインメント作品として成立させている

 

デビューから今まで、ほとんどの曲で共作している作詞家のバーニー・トーピンと最初に出会うカフェのシーンは、(ファンにとっては特に)感動的なくらいに巧く表現されている

 

本作の中で、嬉しい発見というか確認がふたつできた

 

ひとつは、ポップなオリジナル曲で勝負してきたアーティストだから、ルーツ音楽からの影響は感じさせないけれど、ベースにはしっかりソウルがあることが描かれていること

 

もうひとつは、英国のアーティストが米国に進出する時に、どういう風な心持ちで行くのかを、エルトンがLAのTroubadourで「クロコダイル・ロック」を熱唱する前のシーンで観られること

 

個人的にはこのふたつだけでも本作を鑑賞する価値は大いにあった

 

前年にリリースされ、全世界で爆発的にヒットした「ボヘミアン・ラプソディ」とつい比較してしまう、、、音楽的には本作の方が好みだけど、映画としては(ミュージカル的な要素などが無い分)主人公の人生を克明に描いているという点で「ボヘミアン - 」の方がより多くの支持を得ているのもわかるような気がする

 

前述のTroubadourは、現役のライブハウスながら、コロナの影響で存続が危ぶまれているらしいが、何とか復活してほしい

 

NYのアポロ・シアターや、CBGB、ロンドンのMarquee Club、日本にも潰れてはいけないライブハウスがたくさんある(潰れていいところなんてない)

 

ツイキャスの有料配信とか、いろんな手段を使って経営されているので、できる範囲で貢献したい

 

 

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23. ウェールズの山

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しばらくアメリカ映画が続いたので今回は1995年のイギリス映画

 

イギリス映画だから主演はもちろんヒュー・グラント(笑)

 

原題は The Englishman Who Went up a Hill but Came down a Mountain

タイトルで全部説明してどうするのよ、、、

 

 

 

1917年のこと、自分たちが誇りに思っている山の高さをイングランドから来た測量技師が測りにくる

 

山として認められるには305メートル必要なところ、測量した結果はなんと299メートルしかなかった

 

”山”には6メートル足りない”丘”だという事実に、村の人たちが愕然とする

 

"Mountain" だと思っていたのが "Hill" だったことがどのくらいショックなのか、日本人にとってはわかりかねる(笑)が、このショックから村の人たちの必死の抵抗が始まる

 

 

 

この作品は自分にとって忘れられない、というか忘れてはいけない作品になっている

 

10年くらい前、この映画をひとりでDVD鑑賞した

 

最後まで集中して観て、最後にエンドロールが流れて、心地よい気分になっているところで、ふと

 

「あ、この映画、前に観たわ」

 

と気づいた

 

前回もそれなりに感動した記憶もおぼろげに思い出され、心底自分の記憶力の無さを痛感、というか信用できなくなってしまった

 

しかし、考えようによっては、良い映画を二回楽しめるんだから幸せなことかもしれない

 

 

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