2013年のドイツ・スイス・ポルトガル映画
5年前に離婚して、今は孤独ながらも平穏な日々を過ごしているライムント(ジェレミー・アイアンズ)は、ベルンの高校で古典文献学を教えている
ある朝、激しい雨の降る中、学校に向かっていると、橋から身を投げようとしている女性を見つけ助ける
「傍にいて欲しい」という彼女を教室の端で見学させて授業を始めようとするも、濡れた赤いコートを教室に残したまま出て行ってしまう
ライムントは、彼女を探そうとコートのポケットを探ると、そこには一冊の本があり、中には15分後に出発するリスボン行の列車のチケットが挟まれていた
慌てて駅に駆け付けるも見つからず、動き出した列車に咄嗟に飛び乗ってしまう
何とか手がかりをと、車内でその本を読んだライムントは本の内容に惹かれ、筆者のアマデウ(ジャック・ヒューストン)を訪ねる
ライムントの行動力に唯々驚くしかない
自宅で出迎えてくれたアマデウの妹は、陰のある謎めいた女性(シャーロット・ランプリング)で、兄の話は部分的にしてくれるものの、彼が既に亡くなっていることについては何故か触れない
そこには独裁政権時代の反体制運動に関わったアマデウの過去が起因していた
本作のストーリーの中では、反体制活動そのものは重要な時代背景ではあるものの、テーマはむしろ、退屈な余生の様な毎日を送る高校教師が、心揺さぶられる出来事、人に出会い、変化していくこと(そうでないと列車に飛び乗ったりしない!)だからか、その辺りの説明的なシーンはかなり少ない(もちろん、70年代のポルトガルについてほとんど知らなくても、想像しながら観られる)
ポルトガルでは、1933年から1974年まで独裁政権「エスタド・ノヴォ(新しい国)」が続き、スペインのフランコや、イタリアのムッソリーニによるファシズムほど暴力的ではないけれど、ゲシュタポを模して作られたPIDEと呼ばれる秘密警察が、反体制派を弾圧したりしていた
エスタド・ノヴォとほぼ同じ期間、32年から68年まで、何と36年間もの長い間、ポルトガルの首相を務めたのが、アントニオ・サラザール
晩年は、静養中に愛用の椅子が壊れ頭部を強打し、意識不明の重体に
その二か月後に意識を取り戻したものの政権は既に後継者の手に渡っていて、側近たちがでっちあげた偽の新聞を読んで亡くなるまで意味の無い指令書を書いていたという
映画にもなりそうな悲しい晩年の実話
「さざなみ」で人間の内面をさらけ出す様な演技を見せ、本作では頑なで挑戦的な女性を演じているシャーロット・ランプリング
そのどちらも自然で彼女らしくみえることに感心させられる
明日は、都内で最も遠くへのミニシアター行脚をご紹介