引用元:Yahoo!映画
2020年の作品
これだけで品質保証のマークになるような安心感
十二分に期待したのに、それをも上回って人生を噛み締めさせてくれた作品
これまでの西川作品でも、映像もカットも音楽も、これ以上無いクウォリティだったのに、本作でさらに進化している
特に音楽は、(初めての起用と思われる)林正樹の音が、作品に実に馴染んでいた
場面によって抑制の効いた静かなバラードだったり、カントリーブルース調のアコースティックギターだったり、結構バラエティに富んだ音が鳴っているのに、映像との違和感がまったく無い
これまで自身の監督作品はオリジナルだった西川監督にとって、初めて小説をベースにしている(「復讐するは我にあり」を書いた佐々木隆三の小説「身分帳」)
身分帳とは、受刑者の経歴や収監中の態度などを記した刑務所の内部資料
三上の身分帳を入手したテレビプロデューサーの吉澤(長澤まさみ)は、その中身に強い関心を持ち、殺人犯が釈放されてから社会復帰していく過程をドキュメンタリーにしたいと、ライター志望の元部下である津乃田(仲野太賀)を取材に行かせる
13年の刑期を終えて、旭川刑務所を出たばかりの三上正夫(役所広司)は、身元引受人の弁護士庄司(橋爪功)夫妻の元を訪れに上京したばかり
まだ就職先も見付からず所持金も乏しい三上は、テレビ出演を承諾する代わりに消息不明の母親を探して(人探しの番組で自身について放送して)貰うことを条件にする
母親しか知らない三上だったが、その母親からも幼い頃に施設に預けられ、十代の中頃から非行に走り、組事務所にかかわるウチに少年院や刑務所の出入りを繰り返してきた
「今度こそはカタギに」と誓い、新生活をスタートさせようとするも、トラックドライバーの仕事に必要な運転免許証は収監中に失効、取得するには高額な費用を捻出しイチから受講しなければならないと知り、窓口の女性に向かって大声を出してしまう
そして立ち寄った近所のスーパーでは万引き犯と間違われ激高し、店長(六角精児)を怒鳴り散らしてしまう
本作を観たのは「反省させると犯罪者になります」という本を読んだ直後
犯罪の原因(というか生い立ちなどの遠因)に受刑者自らが向き合い、しっかりと認識しない限りは反省を強要しても効果は無いという内容の話
母に対する感情の整理がつかず(自身の存在や頑張りを認めてくれる存在に飢えていた)、出所の都度更生を目指すも結局は唯一温かく迎え入れてくれる組に戻ってしまう三上と重なるものを感じた
そんな福岡の組の姐さんが、三上に言う台詞で
「シャバは我慢の連続 我慢の割に大して面白うもなか やけど空が広いち言いますよ」
という言葉が頭を離れない
エンディングでカメラがすーっと引きながら上空を映すシーンにも重なり、また残酷にも響く「素晴らしき世界」というタイトルの英題が「Under the open sky」と付けられていることにも納得
エンドロールが流れ始めた瞬間に「まだ何も解決していないのに、、」と、自分が上空に放り飛ばされた気分にもなる
そして三上のように無鉄砲ではなく、吉澤のように仕事に徹することができるワケでもなく、ほとんどの人は津乃田のように臆病で仕事への覚悟も中途半端
だから彼以外のキャラクターが光って見えるし、津乃田はカッコ悪く映る
という印象が後半徐々に変わっていく様子に救いを感じる
元受刑者たちの就職支援に奔走する人たちを描いた「過去を負う者」を、先日鑑賞したばかりとあって、両作品を紐付けて再び考えさせられた
明日は、複雑な母娘関係を描いたイギリス映画を紹介します