公開中の松居大悟監督作品
先月、劇場で予告を観た時に「この映画が公開されたら観に来ようかな」と思いながら、ここ最近は劇場で観たい映画も、感染者数も多かったりですっかり諦めかけていたところ
本作がジム・ジャームッシュ監督の「ナイト・オン・ザ・プラネット」に影響されている、と書かれている記事を読んで「それならばお布施を」と劇場まで足を運んだ
舞台照明の仕事をしている照生(池松壮亮)
数年前に足を怪我したことでダンスの道を諦め、裏方の仕事に楽しみを感じ始めていた
7月26日、この日34歳の誕生日を迎えた彼は、ひとり暮らしのマンションの部屋で目覚め、サボテンに水をやり、ラジオを聴きながらベランダで体操をしてから職場に向かう
タクシーの運転手として働いている葉(伊藤沙莉)は、この日も夜の都内を走っていた
「どこかに行きたい」という気持ちがありながら、何処に行けば良いのかわからない
客が告げる行き先に向かって日々車を走らせる生活を、それなりに気に入っている
7月26日だけを切り取って、ふたりの6年間を1年前の7月26日から遡っていくストーリー
ずっと東京だし、昼間のシーンもあるから「ナイト・オン・ザ・プラネット」の様式をなぞっているわけではない(そもそもオムニバスでもない)けれど、ふたりがつき合っていた頃、部屋で一緒にDVD(ビデオ?)を観たり、ロサンゼルスの話の台詞をマネてみたりする(タクシーを運転しているウィノナ・ライダーが、乗客のジーナ・ローランズに女優としてスカウトされる話)
「ミステリー・トレイン」や「パターソン」でジム・ジャームッシュ作品に出演している永瀬正敏も、印象的なオブジェのような役で出演している
朝起きて、サボテンに水をやって、ラジオを聴きながらベランダで体操をした後に、家を出てすぐの曲がり角でお地蔵さんにお辞儀して、公園を横切る時にベンチに座っているおじさんに挨拶するところまでが照生の(そして数年前まではふたりの)日課
そのベンチに座っている男を永瀬正敏は演じている
主題歌はクリープハイプの尾崎世界観による「ナイト・オン・ザ・プラネット」
この曲に触発された監督が脚本を執筆したという
フィルターのかかったギターとエレピの音色が、映画の引きずってる感にぴったり
同じく松井監督とクリープハイプがタッグを組んだ「自分の事ばかりで情けなくなるよ」(2013年)は、ミュージックビデオの延長線上という風だったけれど、本作はクリープハイプを聴いたことがなくても楽しめる映画作品
ふたりとも今の生活には納得している風に見えるけれど、満足というには物足りない「平凡で少し退屈な」毎日
それを喪失感で埋め合わせている、という表現は意味不明だろうか