引用元:amazon.co.jp
2008年のイギリス映画
「それでも夜は明ける」、「SHAME - シェイム - 」のスティーブ・マックイーン監督、初の長編監督作品
どれも負けず劣らず強烈な作品ではあるけれど、個人的にはベルファストを訪れたこともあって、本作への思い入れが最も強い
冒頭、サッチャー首相の
「政治的殺人、政治的爆破、政治的暴力はありません
あるのは殺人、爆破、暴力です」
というコメントから始まる
イギリス政府はIRAを決して政治犯として認めないという明確な強いメッセージ
この演説は(本作の最後にハンストに突入する)ボビー・サンズがハンストを開始した数日後に実際にラジオで流された
当時11歳のスティーブ・マックイーンは、連日テレビで報道されるボビーの痩せこけていく映像を見て衝撃を受けたことが映画化の理由と語っている
1954年生まれのボビーは、北アイルランド紛争が最も盛んだった頃に多感な時を過ごした
20歳になる頃にIRAに入り活動を始め、72年に拳銃の所持で逮捕され、76年まで服役する
そして76年に爆破事件の容疑者として再び逮捕され、翌年の銃器所持で懲役14年の判決を受け通称メイズ刑務所に入る(ここまでは本作では触れられず、服役しているところから始まる)
IRAの囚人たちは、自分たちは政治犯であり、一般的な犯罪者とは異なるとして、
1. 囚人服を着ない
2. 作業を強制されない
3. 他の囚人たちと教育・娯楽のための活動を組織する権利
4. 1週間に1度の面会の権利
5. 抗議行動で失われた刑期短縮の完全回復
という5つの要求をするも叶えられず、囚人服を脱ぎ毛布で過ごす「ブランケット・プロテスト」や、自分の排泄物を壁に塗り付ける「ダーティ・プロテスト」などによって抵抗する
そんなIRAの囚人たちを暴力で押さえつける刑務所職員は、塀の外にいる党員たちに常に命を狙われているため、車の下に爆弾が仕掛けられていないかなど、細心の注意を払っている
職員の暴力(機動隊まで動員される)と囚人の抵抗は続き、ついにボビーはハンストに突入する決断を下す
本作の公開以降も、イギリスがEUを離脱する前から、失業率の上昇などに伴い、沈静化していた(新)IRAの動きも活発化していて、この先いつ大きなテロが起こるかわからない
イスラム圏でもアフリカでもなく、イギリスの一部で2020年代に起こっている恐ろしい現実
北アイルランド紛争については、「ベルファスト '71」、そして逆の立場からは「マーガレット・サッチャー」でもちらと観ることができる
ひとつのテーマについて、複数の映画作品を観るのは、視点が増えたり理解が深まったりする大きな利点がある(もちろん映画だからフィクションの度合いなど考慮する必要はあるけれど)
ベルファストを訪れた際に撮った、ボビー・サンズの壁画
新年最初の作品にしては重過たかもしれない