無人島シネマ

毎朝7時頃更新 忘れてしまうには惜しい映画 と雑記

288. ベルファスト

 

ポスターに書かれた「本年度アカデミー賞 最有力!」というコピーが少し残念ではあるけれど(脚本賞を受賞!)、個人的には舞台がベルファストであること、そしてヴァン・モリソンの曲がいくつも使われていることだけでも贔屓してしまう

 

オリエント急行殺人事件」や「ナイル殺人事件」で監督・主演を務めた才能あふれるケネス・ブラナーにとっても、故郷ベルファストを舞台に書いた脚本が高い評価を受けたのは格別だろう

 

 

冒頭に、H&W(ハーランド&ウルフ社、タイタニック号も建造したこの地発祥の重工業メーカー)のロゴが入ったガントリークレーンを中心に、ベルファストのウォータフロントがスクリーン一面に拡がり、そのバックにはヴァン・モリソンの歌声

 

この時点でもうお気に入り、というか理想的な映画の始まり

 

 

 

1969年のベルファスト

 

カソリックプロテスタントとの間で争いの続くこの街に暮らす少年バディ

 

彼の家族はプロテスタントながら近所のカソリック系の住民とも仲が良く、一刻も早く争いが落ち着いて欲しいと願っていた

 

不況の続くベルファストでは仕事を見つけることが難しく、大工であるバディの父はロンドンに出稼ぎに行き、二週間に一度しか帰って来ない

 

日に日に悪化する状況、家の前の通りでも暴動や放火が起こり、またそうした活動への参加を強要される事態に発展したことで、バディの母親は夫に(家族を養うことが難しくなることを承知で)家に留まるよう懇願する

 

家族の安全や働き口を考え、ロンドン、さらにはシドニーバンクーバーへの移住を考え始める父に対して、生まれてからずっと暮らしてきた街と、年老いた両親や友人、顔なじみの近所の人たちと離れたくない(そして知らない街に移って虐げられたくない)と考える母

 

幼いバディは、危険な状況になっていることは理解しつつも小学校での勉強も楽しく、将来結婚したいと思っている同じクラスのキャサリンや、お爺ちゃんお婆ちゃんと離れ離れになってしまうことだけは嫌だと感じている

 

 

北アイルランド問題を扱った作品を観るたびに「どうしてそこまでして、、、」と

 

そして同じくらい「(比較的近くて言葉の通じる)イギリス本土に移住することはできないのか?」と思ってしまうけれど、宗派の問題も言葉(アイルランド訛り)の問題も、そして生活してきた馴染みの場所を離れることはベルファストに住む人たちにとって簡単なことではないのだろう(とはいえ家族の安全と比べたら、という堂々巡りになってしまう)

 

果たしてバディの一家が選択した道は?

 

 

 

冒頭に描かれる造船所は、ベルファストという街そのものを象徴している

 

1900年代初頭に世界最大の造船会社となったH&W社は、その後タイタニック号の沈没、第一次世界大戦後の不況そして解雇(大戦中、プロテスタントが国の為に戦っていたのにカソリックは造船所で働いていたとされ、数千人が失職したと言われる)、そして第二次大戦で息を吹き返すも、60年代には航空ブームで下火に

 

という浮き沈みを経験、今では船を造ることはなくなり、観光名所になっている

 

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