無人島シネマ

毎朝7時頃更新 忘れてしまうには惜しい映画 と雑記

608. 42-50 火光

 

昨年末に、下北沢トリウッドで強烈なインパクトを受けた「光復

 

(配信でもDVDでも観られないけれど)「もう劇場で観る機会はないのか、、」と思っていたら、トリウッドで再上映されることになった

 

しかも、同じく深川監督+宮澤美保による本作も併せて上映(4/16まで)、ということで先に本作を鑑賞

 

「光復」を観直すのは平日の夜になりそうだけれど、その日は寝つきが悪くなりそう、、

 

 

 

 

「火光」と書いて「かぎろい」

 

シナリオライターの祐司(桂憲一)は、子役時代に売れて以来仕事の無い女優の佳奈(宮澤美保)、そして祐司の母・容子との三人暮らし


オシャレな一戸建ての家に、車は世田谷ナンバーのローバー・ミニ

 

2年前に結婚したが、今でも毎朝、食事の時に「いただきます、愛してるよ」と言い合うふたり

 

 

裕司は仕事場で、あるベテラン女優(加賀まりこ)から、「女優を奥さんに貰うと大変でしょ 特に売れない時期が長いと歪んじゃうから でもアナタだけはずっと味方であげなさいよ」と、アドバイスを貰う

 

正直なところ、裕司にそこまでの感覚は無く、「はあ、」と気の無い相槌を返すのが精一杯

 

一方、演技に自信が持てない佳奈は、(母親になれば演技に幅が生まれるものかと)ある夜、裕司に「子供が欲しい」と言い出す

 

「子供はナシで」という暗黙の了解があるものと思っていた裕司にとっては、驚きと若干の違和感でありながらも、基本的には妻の希望する通りにしてあげたい、と考えている彼は了承し、ふたりは不妊治療を始めることに

 

 

ところが、可能性の低さを示すデータや、薬の副作用、そして予想以上にかかる費用に、それぞれ42歳と50歳になる佳奈と裕司は、自分たちが結構な高さのハードルを越えようとしていることを痛感

 

それでもチャレンジしよう、とふたりで励まし合っていたある日、佳奈の父・徹(柄本明)が、難病指定のALSを発症し入院する

 

普段から気難しい徹だったが、入院生活のストレスと激しい頭痛により、周囲に当たり散らすようになり、父と若い頃から折り合いの悪かった佳奈まで不安定になり、サポートしてくれる裕司の優しさも「優柔不断な弱さ」として見てしまう

 

そしてある日、治療を終えて自宅に戻ると、義母の容子が娘(祐司の姉たち)を招き、賑やかに過ごしていたのを見て(それまで何度も「事前に連絡して」とお願いしていた)我慢の限界を超えてしまう

 



前半は、誰にでも優しく振る舞う(でも最後まで全うできない)せいで、妻をサポートしきれない祐司の優柔不断ぶりにイライラしながら鑑賞していたけれど、度重なるトラブルによって彼なりに肝が座ってからは、むしろ依存してばかりの佳奈を(冒頭の加賀まりこの台詞も効いたのか)鬱陶しく感じるようになり、そして最後には、(こうした状況はある程度予測できただろうに)踏ん張りの利かない裕司に再びイライラを向けてしまう

 

途中で出てくる、介護や、姑の問題も、サブテーマというよりも、あくまでも夫婦というメインテーマの中での、逆境のひとつとして描かれているように映る中で、もっとも印象的だったのが、黙って300万円の借金をしていた裕司を、佳奈が問い詰めるシーン

 

理由はわかるけれど、大事なことだから事前に相談してよね、と思う妻と

 

相談しなくて申し訳ない、そんなことなら不妊治療を諦める、と言わせたくなかったんだよ、と思う夫

 

これが、言う順番と言い方を間違えるだけで、激しい口論に発展してしまう

 

 

 

リアリティに溢れ、かつ細やかな救いのある、素晴らしい映画

 

「光復」の方は、リアリティを飛び越える部分もあり、感覚的に「それはちょっと」と違和感を抱くシーンもあるけれど、そうした粗も含めてより強く惹かれる魅力を感じる

 

観たら絶対どんよりした気分になるのに、また観に行くのが楽しみ

 

そして、深川監督と宮澤美保による新しい作品が作られることに期待している

 

 

明日は、なかなかロックなスイス映画をご紹介

 

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