無人島シネマ

毎朝7時頃更新 忘れてしまうには惜しい映画 と雑記

563. いつか読書する日

f:id:desertislandmovie:20210527100920j:plain

引用元:amazon.co.jp

 

2005年の作品

 

 

 

坂の多い長崎の街

 

大場美奈子(田中裕子)は幼い頃に父を、そして高校生の時に母を亡くし、以来50歳になる今までひとりで暮らしてきた

 

朝は30年以上続けている牛乳配達、昼はスーパーのレジの仕事をして生計を立てている

 

夜にはラジオを聴いたり、本を読んだり、時々亡母の友人、敏子叔母さんとビールを少し飲んだり

 

そんな美奈子も高校生の時に同級生の高梨(岸部一徳)とつきあっていたけれど、高梨の父と美奈子の母が交通事故死したことで親同士の不倫が田舎町じゅうに知られてしまい(またその後、高梨がつれなくなったこともあり)ふたりの関係は消滅していた

 

以来、美奈子はその気持ちを「封印したまま」30年過ごしてきた

 

 

市役所の児童相談所に勤めている高梨は、余命短い病床の妻容子(仁科明子)のケアを昼間はヘルパーさんに頼み、夜は自らが行っていた

 

そして美奈子と同じように、高梨も想いを自らの中に留めたままこの先の人生も生きて行こうと考えていた

 

 

ところが、自分が死んだ後の夫を心配する容子は、自宅に牛乳を配達しているのが美奈子であること、また(ふたりのやりとりは一切無いとはいえ)かつての恋人がこんな狭い町の中に居るとを知り、玄関の牛乳箱に美奈子に宛てたメモを入れる

 

その前のシーンで、美奈子がラジオに匿名(Mというラジオネーム)で

 

「私には大切な人がいます でも私の気持ちは絶対に知られてはならないのです どんなことがあっても悟られないようにするのは難しいことです しかしその人の気持ちを確かめることができないのは本当に辛いものです もし神様がふたりだけで話し合う時間を与えてくれるというのなら、丸一日は欲しいと思うのです」

 

というメッセージと共に、ポール・ウィリアムスの「雨の日と月曜日は」をリクエストしていたのを容子は耳にしていたのだった

 

カーペンターズで有名な曲の作者によるセルフカバーというのも美奈子のキャラクターを彷彿とさせる(そして歌詞の内容も美奈子の心情を映したよう)

 

 

話の展開のうちいくつかには無理があるかもしれないけれど、それでも過去の経緯や、田舎町の世間体や、妻への愛情、平穏な生活を維持したいという思い、そしてそれらを全部壊してでも叶えたい想いが交差する様子に「内容の濃い邦画を堪能した」感に包まれる

 

 

ちなみにロケ地が長崎ということで、美奈子が牛乳配達するのも坂道が多く、牛乳瓶を入れたバッグを抱えて小走りに坂を上る姿が印象的

 

今では牛乳配達の件数も激減しているのかと思いきや、全国レベルでも10軒に1軒くらいの割合で牛乳が飲まれているらしい

 

新聞販売店や宅配弁当屋、そしてウォーターサーバーの会社などが牛乳配達もカバーするケースも増えているし、牛乳だけではなく飲むヨーグルト的な飲料(宅配専用)なども増え、配達先も住宅だけではなくオフィスなどに展開するにつれて時間帯も早朝から昼間へと拡大したりと変化を続けている

 

時代に応じて様式を変えながら生き延びている姿は何とも逞しい

 

 

 

明日は、「もう少し優しくできないかな」と考えてしまう、イランが舞台の映画を