引用元:filmarks.com
1962年の小津安二郎の遺作
会社の上役の平山(笠智衆)は妻に先立たれ、娘、息子との三人暮らし
長男の幸一(佐田啓二)は結婚してその妻と団地住まいをしていて、娘の路子(岩下志麻)が自分と次男の和夫(三上真一郎)の食事など家事を一手に引き受けてくれている
そんな平山に、長年の友人河合(中村伸郎)が路子への縁談話を持ち掛けるも、平山は曖昧な態度で受け流してしまう
彼にとって娘はまだ子供で、本人も(縁談話など)「ピンと来ないだろう」とのんびり構えていた
ところが、クラス会に招待したかつての恩師、佐久間(東野英治郎)を家まで送り届けた時、迎えに出てきた娘(杉村春子)を見て路子の結婚について考え始める
小津監督の最後の作品で、かつデジタル・リマスターされて驚くほど鮮明な画像であるにもかかわらず、テーマ的にはそれ以前の作品よりも「古臭さ」を感じる
まだ24歳の娘に強引に結婚を勧めたり、同い年の会社の若い女性に「君はまだか?」と尋ねたり、今のご時世なら即刻ハラスメント扱いされる言動が続く
そういう父親ながらも「娘を家に縛り付けてはいけない」という思いはあり、奔走するも(そこは時代なのか)娘の意思が最優先という風でもない
恩師が娘と営んでいる中華料理屋で海軍時代の部下と出会い、その流れでバーに行き軍艦マーチ(!)を流してもらったり、最新の生活スタイルを象徴するものとしてテレビ、掃除機などの家電が話題になるなど時代を感じさせる場面が多い
東京の街並みも(歴史的な資料としても)興味深く観られ、リマスターの恩恵を十二分に感じられた
ヴィム・ヴェンダース監督が「東京画」で熱心に撮っていたゴルフの練習場は、本作で長男の幸一が、同僚から誘われてゴルフを始めるシーンを観てのものだろう
そのゴルフを始める際に、同僚の知り合いからクラブを買い取るところで家計を案じる妻の秋子(岡田茉莉子)が執拗に断らせようとするのが可愛い
ちなみに本作には秋刀魚を食べるシーンはおろか秋刀魚に関する話も一切出てこない
他の小津作品と同じように、季節を表す言葉として選んだものなのだろうか