無人島シネマ

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135. 東京暮色

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  引用元:cinemaclassics.jp

 

1957年、小津安二郎最後のモノクロ作品

 

彼の数ある作品の中でも異色作

 

不幸な出来事は他の作品にも出てくるけれど、本作は「全体のトーンが暗く」また「夜のシーンが多すぎる」

 

その影響なのか高い評価を得られてきたわけではないけれど、近年デジタル・リマスター版のリリースなどによって再評価されているみたい

 

本作に限らず、暗いシーンが多い作品には「雰囲気は良いかもしれないけれど、何が映っているのか観えないと困ります、、」と嘆きたくなることもしばしば

 

 

前述の夜のイメージは次女の明子(有馬稲子

 

終始笑わないし、ずっと不満気

 

その割に衣装、髪形も含めモダンで、重苦しさを感じさせない

 

他の女優だったら、作品自体が暗くなり過ぎてしまうところを、明子のやんちゃな雰囲気が救いになっている

 

そして彼女が次女役になったことで、多くの小津作品で次女役を担ってきた原節子が、本作では長女として、いつもとは違った演技を見せているのも本作の魅力

 

どんなに虐げられても怒ったり取り乱したりしない原節子が、本作では自分たち姉妹を捨てた母親(山田五十鈴)に向かって辛辣な言葉をぶつける

 

娘たちにしてきたこと(してこなかったこと)を考えれば、まったく自然な演出ではあるけれど、いつもの小津映画での原節子の役回りを考えると、ちょっとした驚き

 

 

 

銀行の監査役として、優雅な日々を過ごしている父の周吉(笠智衆)は、妻とは離婚し、長女の孝子(原節子)は嫁に行き、次女の明子(有馬稲子)と二人暮らし

 

これで次女が無事に嫁いでくれたら後は安心して、と考えていたところ長女は子供を連れて出戻り、肝心の次女も夜遅くまで遊びまわっていて不安な毎日を過ごすようになる

 

明子は年下の恋人木村憲二との間に子供が出来たことを知った頃、自分たちを捨てて駆け落ちした母親(夫の赴任中に不倫をし相手の男性と満州に行った)が東京に戻ってきていることを知り、尚更精神的に不安定になる

 

仕事ばかりで家族を顧みない周吉の様な父親は、当時のステレオタイプだったのだろうし、うまく行けば無事に定年退職をして悠々自適な老後生活を迎えられたのかもしれないけれど、本作では周吉のような父親が原因となって生じる「家族関係の綻び」と、それをあたかも傍観者かのように眺める周吉が淡々と描かれる

 

こういう視点は小津映画の残酷なところ

 

 

ちなみに、本作を鑑賞する前に「大学は出たけれど」(1929年の小津作品、11分のサイレント映画)を観てみた

 

本作の約30年前のショートムービーとあって、いろんな面で比較のしようもないけれど、撮影方法や役者の使い方の原型を観られて「なるほど、ここから本作の様に発展していったんだな」と理解した気にさせてくれる

 

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