いよいよ本日から公開される、アキ・カウリスマキ監督の最新(祝・復帰)作
先週、ユーロスペースで行われた先行上映に行ってきた
平日の夜にも関わらず、地味なフィンランド映画を観に足を運んだ、奇特な人たちで溢れていた
しかしこの地味なフィンランド映画は、今年のカンヌ映画祭で審査員賞を受賞
今年5月にパリに行った時には、映画館で特別上映されていた(言葉が理解できなくても観たかったなあ)
勤務先のスーパーマーケットで、賞味期限切れの商品をくすねたことで失業してしまうアンサ(アルマ・ポウスティ)
ひとり暮らしの彼女は、自宅でよくラジオを聴いているけれど、最近はロシア・ウクライナの戦況を伝えるニュースが多くて、うんざり気味
そんなアンサは、女友達と行ったカラオケバーで、隣り合わせた二人組の男に出会う
その数日後、カラオケで微妙な美声を響かせていた年配の男の隣で黙っていた若い方と再会し、一緒にコーヒーを飲んだ後に映画(ジム・ジャームッシュ監督の「デッド・ドント・ダイ」)を観に行く
その別れ際、アンサは紙に書いた電話番号を渡すも、男(ホラッパ ユッシ・バタネン)は、受け取った直後に失くしてしまう
工場勤務をしているホラッパも、アンサと同じように基本的には真面目に働いていながらもギリギリの生活を送っている
しかし、彼は勤務中もポケットにアルコールを忍ばせているレベルのアル中で、ある日その事実がバレて、解雇されてしまう
こうした世知辛さには、「パラダイスの夕暮れ」、「真夜中の虹」、「マッチ工場の少女」の労働者3部作の続編的なものを感じさせるけれど、その後のロマンティックな展開は、カウリスマキ監督流のラブストーリー!
尚、上映後には(観客と一緒に鑑賞していた)主演のアルマ・ポウスティさんのトークショーも
上映前に配布されたQRコードで、スマホから質問ができるということで
「カウリスマキ監督からの指示で印象的だったものはありますか?」
という質問をしたところ、最初に採りあげていただき、凄く丁寧にそして長く(通訳の方を交え三回ターン)答えてくれた
まず最初に言われたのが、「Don't Act」そして、「台詞は覚えて来ても、練習はするな」ということ
しかも、(失敗が無い限り)すべてのシーンをワンテイクで進めて行ったという話に、驚きながらも、カウリスマキ作品特有の空気が生まれる理由のひとつなのだろうな、と納得
他にも、「この時代に映画を作るのに、ロシア・ウクライナについて触れないなんてあり得ない」という意見や、アンサやホラッパが精一杯のおめかしをして出かけるシーンに、厳しい生活の中でも楽しもうとする姿を描いたということなど、理解が深まる貴重な話をたくさん聞けた
そして最後に
「この映画を観終わった時に、それまでよりも少しだけ安全で優しい世界になっていますように」
というメッセージで舞台挨拶は終了したけれど、エンドロールが流れ出した瞬間に感じた気持ちに、あまりにもシンクロしていて驚いたというか、感動
帰り道、ふと「ウェス・アンダーソン作品のような人気にはならないで欲しいな」と思ったけれど、(自分を含め)来場していた地味な服装の客層を思い出し、それは杞憂だろうなと、安心して帰宅した
明日は、久しぶりに黒澤明監督作品をご紹介