無人島シネマ

毎朝7時頃更新 忘れてしまうには惜しい映画 と雑記

690. 葛城事件

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引用元:amazon.co.jp

 

2016年の作品

 

公開時に劇場で鑑賞して以来

 

 

こんなに救いの無い「四人家族で暮らしている自宅こそが地獄」という作品を何故観直すのか?

 

自分でも不思議で仕方ないけれど、思いつく理由がふたつあって

 

「救いの無い」という部分にしか最初は意識が向かなかったのに、表面的な話の展開の奥底に、それぞれの生きてきた過程や、トラウマが渦巻いている人間ドラマを感じられたこと

 

そして、程度の差こそあれ「似た様な状況が一般家庭にも起こっている」と感じられたこと

 

 

 

 

 

結婚し、二人の息子に恵まれ、親から受け継いだ金物屋の近所にマイホームを建てた清(三浦友和

 

人生で成すべきことはやり終えてしまったとばかりに、後は子供たちの成長を見守るだけと思っていた

 

 

しかし世間に揉まれた経験もなく、必要以上に一家の主たらんとする清は、家族に対し横柄な口をきき、暴力を振るい、気がつけば威圧的な態度で三人を支配してきた

 

そんな清と毎日暮らすことで、妻の伸子(南果歩)は完全に思考停止、殴られて済むならそれで構わないとなり、長男の保(新井浩文)は真面目な良い子に見えて心にストレスを抱え、次男稔(若葉竜也)はバイトさえ続かない、堪え性の無い青年になる

 

そんなある日、清に耐えかねた伸子は、稔を連れて逃げ出してしまう

 

 

「人間ドラマを感じさせる」と書いたけれど、本作での実質的な主役であり、家族全員がダメになってしまった諸悪の根源である清が、どうやって歪んでいってしまったのかを描くシーンがあると、さらに深みが増した気がする

 

最終的に殺人事件を起こしてしまう稔と、そういう彼に育ててしまった家族(家庭環境)にフォーカスし、事件前と事件後を何度も交差させながら家庭の崩壊を描く過程は、まるで家族の膿をとことん絞り出しているかの様

 

清は言うまでもなく、考えること(子供たちを救うこと)を完全に放棄してしまった伸子は、むしろ清の罪の最大の加担者でもある

 

そして死刑囚となった稔と、獄中結婚をする星野(田中麗奈)の暴力的とも言える献身がカラ回る様子は、葛城家の闇をさらに鮮明に描くための光にも見えた

 

 

元気な時に観て欲しいお薦め映画、という以上に、少しでも弱っている時には観ないでいただきたい作品

 

数年後にまた観るのだろうか、、、嫌だなあ

 

 

 

明日は、比較的最近の、ヴィム・ヴェンダース作品を紹介します