引用元:filmarks.com
森田芳光監督、脚本の1983年の作品
都心に暮らす四人家族が受験戦争に翻弄されるストーリー
次男の沼田茂之(宮川一朗太)は高校受験を控え、家庭教師に教わるも成績は上がらず、父の孝介(伊丹十三)、母の千賀子(由紀さおり)も不安を感じていた
仕事を理由に子育ては完全に丸投げ、息子を叱る時も「金属バット殺人事件」を言い訳に妻任せで無責任な父親、そして父親に言われたことを言われた通りにしかやらない母親に対して、茂之は絶望する
そんなところに三流大学の七年生だという吉本(松田優作)が、新しい家庭教師としてやってくる
吉本は、乱暴ながらも次第に茂之の信頼を得て成績は徐々に上向き、優秀な長男の慎一(辻田順一)が通っている西武高校を目指せるレベルに届く
そしていじめられていたクラスメイトにも(吉本の手ほどきで)喧嘩して勝てるようになる
そうすると不思議なもので、今まで両親にとって自慢の息子だった長男が高校を休みがちになり、、
沼田家の特徴のひとつが細長いダイニングテーブル
全員が横一列になって(家庭教師の吉本の加わって)食事する
父親の家族に対する暴力的な発言にも、
自分しか見えていない(来客中にもかかわらず母親に頼みごとをする)次男にも、
案外まだ子供な(次男の成績が上がり始めると落ち着きをなくす)長男にも、
頼りにならない(子供の味方を演じながら結局は父親に従う)母親にも、
家族として暮らしていく覚悟と愛情が欠けていて、しかも無責任
そして何よりも(横一列で食事するように)
「家族全員が、誰とも向き合わずに生活している」
80年代はバブル景気に後押しされたライフスタイルの多様化が一気に進み、個性が謳われるようになった反面、他人への無関心や孤立も増えてきた
鑑賞前は、80年代的なシュールさを描いた作品なんだろうなと(それ以上の期待はせずに)思っていたけれど、合格祝いに食事をするラストシーンは戦後の日本の価値観(仕事をしていれば家では威張れた父親、家事以外のことは知らないで済まされた妻、学歴さえあれば将来が約束されると信じていた子供たち)が果たして正しかったのかを問い正す残酷さを感じさせる
高度成長期からの価値観を変えないままバブルに突入した日本は(女性が社会に進出するようになったり、子供の主張に耳を傾けるようになったり、最低限の変化はしてきたけれど)この時点で既に様々な綻びを抱えていたのかもしれない
そして、この問題はたいして解消されないまま今に至っている