アメリカのニューオリンズに行った時に、ミシシッピ川を小さなボートで上っていく「ミシシッピ・スワンプ・ツアー」に参加した
その場で申し込み、10人くらいになったところで出発するという、何とも長閑で小規模なツアーだったけど、密林の中の見慣れない植物や、野鳥、水中に生息するワニを見ることができて、気分はすっかりトム・ソーヤ(ハックルベリー・フィン)
↑ まさにこんな感じ
しかし、川沿いに小屋のような住宅がいくつか見えた時には、驚くと同時に(土地も住宅も合法なのだろうかと)心配になった記憶がある
英語ではmarsh(湿地)とかswamp(沼地)とか言われるところが舞台の映画としては、同じくニューオリンズが舞台の「ダウン・バイ・ロー」、或いは「ペーパーボーイ」(フロリダ州)、欧州では「マーシュランド」(スペイン・アンダルシア地方)、「ロゼッタ」(ベルギー)などが思い浮かぶけれど、登場人物はいづれも貧しい暮らしをしている(恐らく土地が安い、或いは建築が認められていない地域)
観たいと思いながらも、観逃してしまうかも、、と諦めかけていた本作
何とか六本木にて鑑賞
原作は、ディーリア・オーエンズの小説(全米で500万部突破)
2019年アメリカで最も売れた本
「アメリカの湿地帯が舞台」ということしかインプットしないで観たけれど、結果としては大正解
ホラーなのかミステリーなのかサスペンスなのか、そんなことに気を煩わせることなく心身共に作品に預けるような感覚で鑑賞できた
カイア(デイジー・エドガー=ジョーンズ)は、ノースカロライナ州の湿地帯に家族と暮らしていた
「家から外に出たら誰も信じるな」
という厳しく、そして偏った父親の教えによって、家族は外出さえも厳しく制限されていた
また厳しい言いつけを守れないと容赦なく暴力を振るわれ、精神的に参ってしまった母親はついに家を出てしまう
続いて長男、そして長女と父親の元を離れ、ついには6歳のカイアだけになる
ふたりになってしまうと、幼いカイアも要領を得て、なるべくDVを受けないようになるも、学校には行かせてもらえない(一度行ってみたものの、周囲に「臭い、汚い」と揶揄われてしまう)、友人もいない、世の中の情報さえ入らない「閉ざされた環境」に暮らしていた
そんなカイアにとっての癒しは、湿地帯の自然(草木や花、魚介類など)と、それをスケッチすること、そして時々釣りをしているのを見かける地元の男の子・テイトの存在だった
やがて父親も家を離れ、ひとりぼっちになってしまったカイアにとって、テイトの存在は唯一の希望であり、社会との接点でもあった
彼から読み書きを教わり、本が読めるようになった頃には、ふたりは惹かれ合うようになるも、大学への進学が決まったテイトは地元を離れてしまう
湿地帯での孤立した生活、それを不気味に思う周囲の住人からの差別、またアル中の父親からのDV、そして証拠も無いのに降りかかる殺人容疑
裁判で無罪放免となり、その後長い年月を愛する人と共に暮らすも、彼女の死後明らかになる事実
「このままエンディングだな」と、勝手に想像していた瞬間の冷や水に、思わず
「やられた、、」
と心地良く打ちのめされてて、そのショックを抱えたまま、「善悪の基準や生命の価値は、普段の社会生活の中でのものと、大自然の営みの中では、まったく同じというワケにはいかないだろうな」と思いながら、エンドロールを眺めた
今年劇場で観た中で、特別に良かった作品を思い浮かべていたところに、強烈なのが割り込んで来た