無人島シネマ

毎朝7時頃更新 忘れてしまうには惜しい映画 と雑記

902. ビヨンド・ユートピア 脱北

 

 

実際に脱北を目指して国境を超えるシーンを収めた(再現映像ナシの)ドキュメンタリー映画

 

ということで、是非劇場で観ようとシネ・リーブル池袋まで遠征

 

 

 

韓国ソウルに住むソンウン牧師

 

北朝鮮で知り合った(後の)妻を無事に脱北させた経験から、これまで多くの脱北者を支援してきた

 

脱北者はもちろんのこと、支援行為を続けるソンウン牧師も、複数の国の当局から目を付けられている

 

活動をサポートしていた実の息子が命を失うという悲しい出来事がありながらも、以降の10年でも1,000人以上の脱北に手を貸してきた

 

 

そんな彼の元に、幼児2人と老婆を含む5人家族の脱北を助けて欲しいという電話が入る

 

 

 

脱北と言っても、38度線を越えるわけではなく(北朝鮮・韓国の国境には多くの地雷が埋められている)、中国、ベトナムラオスという、「北朝鮮と仲の良い国」を、身を隠しながら経由し、タイまでの命懸けの移動

 

その間には、脱北者を商品としか見ていない複数のブローカーが存在し、彼らの言う「どこまで本当なのかわからない」突発的な事情や危険に翻弄され、追加料金を払いながら、それでも信じるしかなく、前に進むしか選択肢の無い家族の姿に息が詰まりそうになりながら鑑賞

 

 

中国国境を越え、束の間のひと息を入れている際に、老女や幼い女の子が依然として祖国の指導者を敬う発言をするシーンには、ゾッとすると共に、人間の自然な姿の様にも思えた

 

印象に残ったのは、脱北に成功した(今では流暢な英語を話す)若い女性が、

 

「かつて住んでいた北朝鮮の町が今でも懐かしく、そこで暮らしている人に会いに行きたい」

 

「生きていけなくて脱北したけれど、嫌だったわけではない」

 

という趣旨の発言をしていたこと

 

外からの情報を遮断されるだけでなく、(ごく一部の)アメリカの貧しい生活の映像などを見せられせて育ち、自分たちはそこそこの暮らしが出来ていると洗脳されてきた彼女たちにとって、もう少しだけ食べるものがあって、もう少しだけ統制が厳しくなければ、脱北する選択肢は存在しなかったのかもしれない

 

とはいえ、国からの指示で、各家庭や会社が競って人糞を袋や桶に集め、農家に提供している映像(まるで江戸時代の貧しい生活を描いた「せかいのおきく」と同じ生活レベルだ)などを目の当たりにすると、本当に洗脳の恐ろしさを感じる

 

また、もう少し〇〇だったら、という意味では、もしソ連が崩壊していなければ、愚かな指導者にも目指すべき、そして相談できるところが存在し、国民の生活レベルもここまで困窮することはなかったのかもしれない

 

 

命懸けの亡命というところでは、アフガニスタンからロシア、最終的にスウェーデンまで移動する「FLEE」を連想させる

 

 

数年後に現体制が崩壊して、こんな恐ろしい時代があったという記録フィルムに本作がなることを願う

 

 

 

明日は、「ミツバチのささやき」の監督の最新作を、いち早くご紹介

 

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