引用元:gaga.ne.jp
殺人と強姦の目撃者たちが証言するも、それぞれの主張は核心部分で微妙に食い違い、真相は「藪の中」
という、芥川龍之介の小説を下敷きにしたようなストーリー
息子の湊が教師に虐められている、と確信するシングルマザーの早織(安藤サクラ)
湊の担任の保利先生(永山瑛太)
そして湊
という三者それぞれの視点で、学校とその周辺で起こる数日の出来事を追っていく
早織視点では、学校側の隠蔽体質や、不誠実な担任への怒りに溢れ、
保利の視点では、確認もせず謝ろうとする、事なかれ主義の校長(田中裕子)や、先入観を持って、決めつける保護者やメディアへの対抗心が描かれ、
湊(そして親友の依里)の視点では、クラスのイジメっ子たちや、虐待を止めない依里の父親から如何に逃れるかという恐怖に揺れている
多くの人間が「自分(とその親、或いは子供)は、まとも」だと信じている一方で、
「シングルマザーだから、防衛本能が過剰なのだろう」
又は、「(孫を事故で失って)無気力な校長は、やる気が無く、職務放棄しているのだ」
或いは、「体罰を認めて謝罪することもできない、未成熟な教師を辞めさせなければ」
など、先入観、事実誤認、或いは(控えめに言っても)憶測で、相手方に非があると決めつける
「相手方に非がある」どころか、「異常なのは相手方だ」という感覚に近いものを感じさせる
冒頭に触れた「藪の中」的な、主張が食い違うポイントとして、早織視点での、校長の不誠実さと、保利のサイコっぷりなどは、他者視点では「そこまで酷くない」或いは「誤解」となるけれど、最後に答え合わせされるわけではなく、観る側に判断が委ねられている
こうした構成から、「この映画は、犯人捜しのミステリーではないのだろうな」と、途中で感じられた
また、学校での虐め、教師からの虐待、親による家庭内暴力、モンスターペアレンツ、LGBTなど、映画のテーマになり易い要素に溢れていながらも、(鑑賞後には)社会問題を核にした作品にも感じられなかった
偏った解釈ではあるけれど、少年たちが大人たちの目の届かないところで、短期間にいろいろ経験し成長する、という意味では、2023年の日本における「スタンド・バイ・ミー」なのかもしれない
逆に、犯人捜しのミステリーだとか、社会問題に切り込んだ映画として観ると、整合性や掘り下げ度合いに不満が残るけれど、そうしたミスリードの誘発をも意識的に織り込んだかの様な、まさにカンヌ映画祭の脚本賞に相応しい傑作だと思う
ストーリーを一切邪魔することなく、その世界観をグンと引き上げている坂本龍一の音楽も素晴らしく、これだけの為にでも劇場で観る価値のある作品
明日は、安保闘争中の学生を描いた作品を紹介します