無人島シネマ

毎朝7時頃更新 忘れてしまうには惜しい映画 と雑記

939. 江分利満氏の優雅な生活

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引用元:amazon.co.jp

 

大正15年に生まれで、数え年が昭和の元号と一致している江分利満(エブリマン=every man)の日常を描いた山口瞳の小説が原作

 

 

every manという表現はあまり聞いたことがないけれど、意味的にはordinary man(どこにでもいる一般的なひと)という意味だろう

 

サントリーの宣伝部で働いているこの男は30代

 

仕事ぶりもパッとせず、若い世代からのウケも今ひとつ(時代だろうか、今で言えば風貌も社内での存在感も50代くらいに見える)

 

夕方に仕事を終えるとよく深夜(明け方近く)まで飲み歩いてはクダを巻いていた

 

彼のそんな様子をいつも気にかけて見ていた婦人画報編集者の二人組が、ある日(既に吐きそうなほど飲んでいた)江分利に声を掛け、さらにハシゴ酒をする中で執筆の依頼を快諾させてしまう

 

翌日、江分利のオフィスに訪れた二人から改めてその話を聞くも、泥酔していてまったく記憶にない彼は「自分が小説を書くなんてとんでもない」と平謝りして断ろうとするも、強引な二人に説得されてしまう

 

悩んだ挙句、読者である婦人層が知らない、平凡なサラリーマンの日常について書き始める

 

 

明るく楽しんでいるように見える若者にも馴染めず、仕事にも生きがいを見いだせない毎日、病弱な妻と息子の面倒や少ない給料で家族を養っていくことの苦労、そして戦時中に荒稼ぎして羽振りの良かった父親がその後落ちぶれていく様を見るにつけ感じてしまう罪悪感

 

とはいえ当の本人は夕方になるとまた飲みに出掛けてしまうあたりがタイトルにある通り「優雅」なのだけれど、生活はなかなか厳しく借金を返す見込みもつかない

 

自宅の家電製品が充実してきたり、若者たちがダンスに興じたり、戦後の生活を謳歌する周囲の中で疎外感を感じている江分利のシニカルな目線を通じて、日本という国のお気楽さや逞しさを描いているようにも映る

 

昭和30年代がどんな風だったのか、新しい角度で観ることができて面白い映画だった

 

 

明日は、最近息子の帰りが遅くて心配になる映画を紹介します

 

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