引用元:filmarks.com
2021年のアメリカ映画
幼い頃から圧倒的な歌唱力で大人たちを驚かせてきたアレサ(ジェニファー・ハドソン)
デトロイトで有名な教会の牧師をしている厳格な父親C・Lフランクリン(フォレスト・ウィテカー)の自慢の娘として教会や自宅で行われる集いでその歌声を披露してきた
厳格過ぎる父親の束縛に反抗したいという思いが爆発しそうになったその時、父親は大手コロンビア・レコードとの契約を締結、親子でニューヨークに向かう
ところがスタンダードを歌わせてもジャズを歌わせても上手ながらアルバムは一向に売れない
そんな中、以前アレサの父親から接近禁止を喰らっていたテッド(マーロン・ウェイアンズ)と仲良くなり、父親の元を離れて彼のマネジメントでアトランティック・レコードと契約
ふたりは当時アトランティックが録音に使っていたリック・ホールが運営しているフェイム・スタジオのあるアラバマ州マッスル・ショールズに向かう
ヒットするまでの苦労も丁寧に描かれていて心配したけれど、キャリアの大きな転換としてフェイム・スタジオでのやりとりのシーンもたっぷりあるのでソウル好きにはたまらない内容
テンポを少し早めただけ、リズムを少し変えただけで曲の表情が全然変わり、教会臭い(或いはお行儀良すぎる)曲にソウルが注入されグルーヴが生まれ、あのゾクゾクする「I Never Loved A Man」のイントロが生まれる
ニューヨークのプロのミュージシャンたちでは叶わなかった作業が、譜面なしにスタジオ内での試行錯誤の中で完成していく
リック・ホールのスタジオでは、ソウル・ミュージックを愛するスタジオ・ミュージシャンが人種に関係なく共同作業していたのに、アリサがやって来た日に限って(偶然にも)白人のプレイヤーばかりで不穏な空気でレコーディングが始まる
しかし演奏と歌唱で互いの実力を一瞬で黙らせる(認めさせる)シーンが最高にカッコ良い
マッスル・ショールズのスタジオについては2014年に公開された映画「黄金のメロディ マッスル・ショールズ」でたっぷり楽しむ(勉強する)ことができる
そしてヒットに至るまでと同様に、その後の身内との不和やアルコール依存との闘いなどもしっかり描かれている(この辺りのヘヴィーな展開はレイ・チャールズの生涯を描いた「Ray/レイ」)を思い出させる
その反面、復活を期した教会ライブ以降のキャリアについては受賞歴などがテロップで語られるのみで、1961年のデビュー、1967年「リスペクト」のナンバーワン・ヒット、1972年の教会ライブ、そして2003年に引退(その後もライブや公の場での活動はあるものの)というキャリアを考えると複雑な思いがある
70年代以降のニュー・ソウルやファンク、ディスコやブラック・コンテンポラリーなどの流れに乗るような器用さ、貪欲さ、また導いてくれるプロデューサーにも恵まれなかったのだろう
もっと華やかで濃いキャリアの後半もあり得ただろうに
ローリング・ストーン誌の選ぶ史上最も偉大な100人のシンガーで1位に輝いた者のキャリアの後半としてはあまりに淋しい
ちなみにトップ20をリストすると
- アレサ・フランクリン
- レイ・チャールズ
- エルヴィス・プレスリー
- サム・クック
- ジョン・レノン
- マーヴィン・ゲイ
- ボブ・ディラン
- オーティス・レディング
- スティーヴィー・ワンダー
- ジェームス・ブラウン
- ポール・マッカートニー
- リトル・リチャード
- ロイ・オービソン
- アル・グリーン
- ロバート・プラント
- ミック・ジャガー
- ティナ・ターナー
- フレディ・マーキュリー
- ボブ・マーリー
- スモーキー・ロビンソン
という錚々たるもの(ヴァン・モリソンやジャニス・ジョップリン、エタ・ジェイムスでさえトップ20には入っていない)
個人的には彼女の音楽は(高校生の時に愛読していたピーター・バラカンの「魂のゆくえ」で紹介されていたこともあって)「30グレイテスト・ヒッツ」という2枚組のCDを購入したのが始まり
ベスト盤あるあるではないけれど、その後オリジナル・アルバムを聴き込むのはずっと後になってしまった(元々アルバムで語るタイプのシンガーではないからベスト盤を紹介した理由もよくわかる)
よくも悪くもアーティスティックというよりは職人的なシンガーだったのだろう
つい先日「アメイジング・グレイス」(72年に教会で行われた伝説のライブのドキュメンタリー)を観たばかりだから、そのシーンの忠実な再現の完成度にも驚かされたし、このライブに至るまでの父と娘の関係やアリサ自身の健康状態なども決して良くなかった経緯なども観られてより深く理解できた気がする
「アメイジング - 」を観ていなくてももちろん楽しめる作品ながら、観た人には是非本作もお勧めしたくなる