無人島シネマ

毎朝7時頃更新 忘れてしまうには惜しい映画 と雑記

561. 棒の哀しみ

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引用元:Yahoo.co.jp

 

1994年の作品

 

19歳で組に入り「お前は棒っ切れみたいな奴だなあ」と頭に言われた男のストーリー

 

 

大村組のために8年間もムショ暮らしをしたというのに、組長からはそれに見合う扱いをされず、割の合わない危険な仕事ばかり回される若頭の田中(奥田瑛二

 

見た目は「電気会社の課長さん?」と言われる風貌、組織の中でも秀でた策士で、いつも冷静に周囲を観察している

 

と同時に内なる狂気とそれを遂げる行動力も備え、また

 

かつての自分と同じように19歳で組に入った「命を懸けることしかできません」という若者に対して

 

「命を棒に振るんじゃねえぞ、棒に振る時は俺が指示する」

 

というトップに立つ気概も備えていた

 

にもかかわらず組長からは「(今抱えている数少ない若い衆と)新しい組を作ったらどうだ」と体よく跡目から外されてしまう

 

 

 

 

ヤクザ映画ではあるけれど、無暗に人が死なないのが良かった

 

田中が虎視眈々と起死回生を狙っている様が、彼の独り言のお陰でよくわかる

 

こういう設定にすると劇中劇っぽく、或いはミュージカルっぽくなってしまいそうなところをそう感じさせないのは単純に演技力なのだろう

 

またナイフで相手を刺すことも厭わない田中が、部屋を綺麗に掃除したり喧嘩してスーツのボタンが取れたのを自分で直したりするギャップも可愛い

 

少し残念だったのはやたらと煙草をくわえるシーンが、格下に火をつけさせる威厳を示すシーンとして描かれていて「1994年ってそんな昔か?」(一般社会との時差もあるだろうけれど)と思ってしまった

 

 

 

ちなみに棒っ切れみたいだと言われた田中が「棒に振るな」という言い回しを使うのも面白い

 

この「棒に振る」という表現は、昔「棒手振り」と呼ばれる店を構えることができない商人が、天秤棒を担いで野菜や魚を売り歩くも(そうした売り方ではいくら良いモノでも)安く買い叩かれてしまい、いつまでも店を構えることが叶わず一生棒手振りを続ける羽目になることからきているそうな

 

理屈としては行商でも定価販売は可能だろうけれど、購買心理として「価格交渉の余地があるはず」と足元を見てしまうのか、逆に言えば買う側も「店構え」に対しては敬意を持つのか

 

などどいうことをオンライン購入が主流になる今、考えるのも無駄ではない気がする

 

 

 

明日は、ギリシャが舞台の映画を紹介します